Diary

寿司屋

寿司屋が好きだ。

最近流行りの予約が取れないとかコースだとか何だか気取った感じではなく、ふらっと行って馴染みの大将にお任せで握ってもらう。

寿司と日本酒に詳しいって少し憧れるが、下手をすると1人で一升呑んでしまうこともあって、大将から聞く魚や酒のウンチクは一向に覚えられない。

この酒は冷酒でも冷や酒でもいけるよ「何処」の「某」で今が旬の「何々」の稚魚で「云々」。。

聞いてるそばから全部忘れてしまう。

結果として「美味いくて幸せだなあ」という気持ちだけが残る。

その度に寿司屋という仕事が羨ましくなる。

今だけの旬の素材を使って、それを楽しみに待つ目の前の客のために腕を振るい作品を完成させる。

そしてその作品は客の腹に収まった瞬間に感動と共に完結する。

その潔さにシビレる。

まるで一つのエンターテイメントのステージを見ているようだ。

それと比べると家具作りは時間の軸が全く違う。

材木は使えるまで何年も寝かせる必要があるし、それから何ヶ月もかけて家具を作る。

「家具作りは感動までのスピードが何だかジレったいんですよ。完成した後もずっと責任があるしね」と大将にいうと。

「いやいや。アタシは逆に作品が残るそっちが羨ましいよ。家具は100年先の未来にも作品が残ることだってあるわけでしょ?ロマンがあるよ!こっちなんか食ったら影も形も残らないんだからさぁ」

「まあねぇ。でもやっぱ寿司屋はLIVEやってるみたいでかっこいいっすよ」

職人同士の「無い物ねだり」だ。

「まあでもアタシみたいな人間が人様に喜んでもらえる事って言ったらこれしか無いからねえ」と大将。

俺もそうだ。この仕事が自分に向いているのかどうかなんてどうでもいいのだ。

俺の仕事を楽しみにしてくれる人がいて、必要としてくれる仲間がいる。

それ以上に贅沢なことなどない。

白濁した頭で当たり前のことにあらためて気がつく。

「ご馳走様でした」

「あいよ。お愛想ねー!」

威勢の良い大将の決まり文句で今日も舞台の幕が降りた。